当院は院長が日本頭痛学会の専門医であり、特に片頭痛の診療は得意としています。
約一年半前になりますが、この片頭痛の予防薬の新薬がでました。これが非常に効果が高い!当院での使用経験を合わせて、お話します。
片頭痛というと、頭半分の痛み?と考えてしまいますが、実は違います。
片頭痛は、つらくて動けなくなってしまう、そして多くの場合頭痛時に吐いてしまう、強い嘔気がある。嘔気嘔吐が無くても、頭痛時に光や音がつらく、暗くて静かな部屋で寝ていたくなってしまう。これが片頭痛を疑う病状です。当院に受診された場合は、問診、血圧測定、神経学的検査、必要に応じて脳画像検査や採血などを行い、片頭痛の診断を行います。
診断後は治療になりますが、治療には、頭痛が起きた時に痛みなどを抑える発作時治療と、頭痛発作の回数を減らしたり痛みの程度を軽くする予防治療があります。皆さんのイメージとしては、発作時治療がメインですよね。
しかし実際には、発作時治療のみでは頭痛のコントロールできないことが多いです。また発作時の治療頻度が多いと、これらの発作薬で頭痛を誘発する、薬物乱用頭痛を引き起こすことがあります。このため、頭痛予防治療は大切であり、頭痛学会のガイドラインでは、月に3日以上片頭痛発作がある場合は、予防治療を推奨しています。
実際に、当院で片頭痛で定期受診されている方の約8割は予防治療を行っています。
薬剤による予防治療ですが、これまではバルプロ酸ナトリウム(デパケンなど)、プロプラノロール(インデラル)、アミトリプチリン(トリプタノール)、ロメリジン(ミグシスなど)等が使われて来ました。当院でも多くの患者さんに使っています。
しかしこれらの薬剤で予防効果が乏しい、薬の副作用が辛い等で、予防治療をやめてしまう人も少なくありません。
本題です。
昨年春より、CGRP という物質に対する抗体療法の薬剤が使用出来る様になりました。CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)とは、脳の周囲にある硬膜や三叉神経に存在し、片頭痛発作時の血管拡張や炎症反応を起こす原因物質です。この抗体療法はCGRPの働きをブロックすることで、発作頻度を減らし、発作時の疼痛等を軽いものにします。
薬剤として、ガルカネツマブ(エムガルディ)、フレマネズマブ(アジョビ)、類似薬剤としてCGRPの受容体に対する抗体のエレナマブ(アイモピーグ)があります。当院ではエムガルディをメインに使用していますが、ほかの薬剤も対応しております。
エムガルディ実際の治療法ですが、月1回当院で注射をします。治療が軌道に乗った場合は、注射方法にバリエーションがあります。ほかの薬剤も細かな違いはありますが、概ね同じです。
エムガルディの効果ですが、約半数の方が頭痛の回数が半分になった、また1割弱の方が殆ど頭痛がなくなったとのデータがあります。当院では十数人に使用していますが、約9割の患者さんが、これまで感じたことのない効果を実感しています!
また副作用が少ないのも、この薬の良いところです。全身性の副作用はほとんど無く、注射部位の疼痛や腫れぐらいです。頻度はそれぞれ疼痛10.1%腫れ14.9%です。
症状の多くはアレルギーによるものですが、アレルギー体質のかたは、アイモビークがこの副作用が出にくい傾向があると言われています。
尚、この薬剤が使える患者さんは、以下の要件を満たす必要があります。
- 片頭痛の診断がついている18歳以上。
- 発作が過去3ヶ月、平均で月4回以上ある方。
- 過去に従来の予防薬(バルプロ酸ナトリウムなど)で効果が不十分、または副作用などで内服継続が困難の場合。
つまり、頻度の多いタイプで、過去に予防療法が上手くいかない、満足できない患者さんという事になります。当院に受診した場合も頭痛頻度や過去の予防療法の履歴を確認してから、この治療を紹介します。
片頭痛で困っている患者さんにはとでも良い薬なのですが、ネックは費用です。
エムガルディの実際の金額は、1本あたり薬価が約45,200円、健康保険が3割負担の方で約13,600円です。また初回月のみ2本投与のため、この倍となります。
使ってみたいと思われる方は多いのでが、費用で躊躇われてしまうのです。
費用とも絡みますが、この予防治療をいつまで続けるか、どのタイミングで休止するかという問題もあります。皆さん、まず3回3ヶ月は投与し、そこで効果があれば継続します。効果があった患者さんに関しては、当院ではまず9ー12ヶ月継続して、希望が有ればそこで一旦休止する様にしています。
ただこれまでの報告では、休止例の3分の2以上が予防効果が下がったとの報告があり、当院でも休止した6人のうち3人が再燃、そのうち1人は治療再開しています。
効果はとてもいい薬なのですが、費用と継続期間がこれからの課題ですね。
ただ片頭痛で困っている患者さんにとっては、これまで感じたことのない効果が期待できる薬剤です。もし検討されたい場合は、まず院長外来を受診していただき、外来時にご相談ください。
尚、電話やメールでは対応できませんので、ご了承下さい。また、外来で相談後に治療の予約をしますので、初診時に注射治療できないことをご理解下さい。